盈ちて欠く欠けては盈ちると知りながら さても恋しき三五夜の月
滴塵012
本文
盈ちて欠く欠けては盈ちると知りながら さても恋しき三五夜の月
形式 #和歌
カテゴリ #4.無常・生死
ラベル #月 #無常 #自然現象
キーワード #月 #盈ち欠け #三五夜 #恋しさ #無常
要点
月の盈ち欠けを知りながらも、満月を恋しく思う心情。
現代語訳
月は満ちては欠け、欠けてはまた満ちると知っているのに、それでも十五夜の満ちた月を恋しく思ってしまう。
注釈
盈ちて(みちて)欠く:満月になり、そして欠けていくこと。無常、生滅変化のメタファー。また完全な美、または恋しい人のメタファー。
三五夜:十五夜、満月の夜を指す。
さても:そうではあるが、それにしても。
解説
無常を理解していても、人は完全さや永遠を求める。理知では「欠けてもまた満ちる」と分かっていても、感情は満ちた月に執着する。恋愛や人生における理想と現実の乖離を示す詩。満ちる一瞬の美しさに心を惹かれる人間心理を、自然現象を通して描き、無常観と恋しさのせめぎ合いを鮮明にしている。
深掘り_嵯峨
月が満ち欠けを繰り返すのは自然の摂理(無常)であり、この世の全てが変化していくことは頭では分かっている(知りながら)。
しかし、「さても恋しき」と続くことで、その理屈を超えて、完璧なもの、満たされた状態(満月)を求めずにはいられない人間の情念を描いています。知性と感情の間の深い溝、真理を悟りつつも俗世の情愛に囚われる心の葛藤が、月という普遍的なモチーフを通して表現されています。